Japan Mobility Show 2025を振り返る
Japan Mobility Show 2025(以下JMS2025)が、2025年10月30日から11月9日まで開催された。
米国や欧州でモーターショー縮小の流れが続く中、「モーターショー」から「モビリティショー」へと生まれ変わって2回目(一般公開として)となる今回のJMS2025は、ワクワクするようなコンセプトモデルや新たな提案から、今後市販される新型車まで、見どころたっぷりで大いに楽しめるショーだった。
筆者が長年注目してきた「小型電動モビリティ」の分野においても、興味深いモデルが多数登場していた。これからの移動を予感させる注目のモデルたちを紹介していこう。
3輪・4輪も!多様な「特定小型原付」を展示
今回のショーで特に目立っていたのは、2023年7月に施行された改正道路交通法で新設された「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」の枠組みに対応した小型電動モビリティだ。
制度開始当初は、2輪の立ち乗り型、いわゆる「電動キックスクーター」が中心だった。しかし今回は、3輪や4輪のモデルが大きく存在感を示していたのが印象的だ。
特定小型原付という区分は、電動キックスクーターのためだけの枠ではない。道路運送車両法で規定されているのはサイズや最高速度、保安部品関係など安全な走行に必要な条件だけで、タイヤの数や車体の形などは自由だ。
2023年7月の道路交通法改正で同枠が制定された直後は、電動キックスクーターばかりが注目されたが、今回のJMSでは、「自転車と同等のサイズ感(全長190cm x 全幅60cm)でありながら、自転車よりも楽に、そして安定して乗れるモビリティ」という特定小型原付の可能性を広げるようなモデルが多く見られた。
その筆頭が、ベビーカーなどを製造・販売しているキュリオの「CURIO Q1」だ。 クルマのようなハンドルとシートが装備された4輪の特定小型原付で、2輪車に乗り慣れていない人でも安心して運転できそうな安心感がある。写真のように簡易的な屋根も装着可能で、日常の買い物や移動に重宝しそうだ。現在、2026年度中の発売を目指しており、価格は60〜70万円程度を想定しているという。特定小型原付は運転免許が不要なので、高齢者の免許返納後の移動手段として、いい選択肢になりそうだ。

スズキは、2023年のモビリティショーで展示されていたコンセプトモデルの進化版「SUZU-RIDE2」を展示していた。こちらも特定小型原付としての製品化を視野に入れており、大手メーカーもこの分野に本腰を入れていることがうかがえる。スタイリッシュで荷物がしっかり積め、走破性も高そうな設計は、さすがセニアカーをつくっているスズキといったところ。

ホンダ発のスタートアップであるストリーモは、立ち乗り3輪モビリティ「ストリーモ S01JTA」を展示。独自のバランスアシスト機構により、2輪とは比較にならない圧倒的な安定感が特徴だ。筆者は前回のモビリティショーで試乗したが、停止時でも地面に足を着く必要がなく、それどころかステップに乗ったままハンドルから手を離しても自立するほどの安定性に驚いた。走行時もふらつきを抑える設計になっており、2輪の電動キックスクーターは少し怖いという人でも安心して乗れると感じた。こちらは約30万円で販売されている。

glafitは3輪、4輪のコンセプトモデルを展示
TDでも何度か紹介しているglafitは、自転車タイプの特定小型原付「NFR-01」に加え、新たに3輪、4輪のコンセプトモデルを展示していた。その開発の目的は「日本が直面する『移動弱者の増加』という社会課題を見据えた提案」だとプレスリリースで説明している。
P.E.T.は前輪を2輪として安定性を高めたモデルで、その名の通りシート下にペットを乗せられるようになっている。写真ではガゴをつけたり、屋根をつけたりしてデリバリに使うような提案もあった。


大阪・関西万博で展示・デモされていた4輪のコンセプトモデルWAKU MOBIも展示された。特定小型原付は、幅60cm以内と規定されているため、どうしても左右の傾きに弱い。そこでglafitはアイシンが開発中の姿勢制御技術を組み込み、片方のタイヤが段差に乗り上げても転倒しにくい設計とした。免許返納後のシニア層を見据えて製品化に取り組んでいるという。
未来のモビリティは生き物になる?
個人的に最も印象に残ったのは、ヤマハ発動機の「MOTOROiD:Λ(モトロイド ラムダ)」だ。ヤマハは2017年に自立する2輪車「MOTOROiD」を発表、前回のショーではその進化版「MOTOROiD2」を展示していた。いずれもインパクトがある造形だったが、ハンドルやシートがあり、まだぎりぎりバイクらしい形をしていた。ところが、今回のMOTOROiD:Λは、ハンドルもシートもない。

音楽とともに地面からむくりと起き上がり、まるで生まれたての草食動物のように足(タイヤ)をプルプルと震わせながら走り出すのだ。説明を聞くと、人間が姿勢制御を組み込むのではなく、AIが仮想環境で試行錯誤を繰り返し、自ら「立ち上がる」「直進する」「段差を超える」といった動きを自ら獲得していくのだという。新たなモビリティというより、新たな生き物の誕生を見ているような気持ちになった。
小型電動モビリティが本格的に存在感を示し始めたのは2019年の東京モーターショーだったように思う。会場内に小型電動モビリティ用の試乗コース「オープンロード」が設けられ、電動キックスクーターから自動車タイプまで、さまざまな乗り物を試すことができた。その一部は、「今すぐ買いたい(けど買えない)、2020年こそ発売してほしいモビリティ」でも紹介した。
今こそ移動の未来を考えるとき
それから、小型電動モビリティを取り巻く環境は大きく変わった。前述の通り2023年夏に「特定小型原付」が誕生し、電動キックスクーターをはじめとする電動モビリティが、免許不要で公道を走れるようになった。
この新たなルールはまだまだ社会に浸透しているとは言い難く、歩道走行や飲酒運転といった課題も出てきている。また道路環境をはじめとするインフラ面の整備も追い付いていない部分があるのが現状だ。しかし筆者個人は、特定小型原付は数年にわたる検証を経て決められたルールであり、サイズや動力性能といった規定も電動アシスト付き自転車に準じた妥当なもので、日本のモビリティを変えていく上で、一歩前進だと捉えている。
現在の道路交通法は1960年に制定されたもので、前提としているモビリティは現在とはまったく違う。この10年ほどで電動キックスクーターやEVなどの電動モビリティが現実になり、自動運転の実現も視野に入ってきた。今こそ、歩行者からクルマやトラックまで、日本のモビリティを俯瞰して、これからの日本に最適なモビリティの形を考えるべきタイミングだ。
残念ながら「TD」は一旦お休みとなるが、筆者は引き続き変革期にあるモビリティ分野の動きを注視していきたい。


