日本を代表する次世代乗り物メーカーを目指すglafitが「開発しない」ワケ

Jun 21,2019report

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Jun21,2019

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日本を代表する次世代乗り物メーカーを目指す glafitが「開発しない」ワケ

文:
TD編集部 出雲井 亨

折りたたみ自転車の姿をした電動バイクの「glafitバイク GFR-01(以下glafitバイク)」。試乗編に続き、glafit代表取締役の鳴海 禎造(なるみ・ていぞう)氏のインタビューをお届けする。なぜハイブリッドバイクを作ることにしたのか。これからどんなものを作っていくのか。そして強烈な少年時代のエピソードとは。興味深い話が次々と飛び出した。

前回の記事:【試乗レポ】こがなくてもスイスイすすむハイブリッドバイク glafitバイクへの期待

ハイブリッドバイクはクルマを作るためのステップ

なぜ(自転車にモーターを組み合わせた)ハイブリッドバイクを作ったのでしょうか。

鳴海:もともと、僕たちはクルマを作りたかったんです。
トヨタやホンダのような自動車メーカーになると決めたのが、2012年7月2日です。「日本を代表する次世代乗り物メーカーになる」というビジョンを打ち立てて、クルマづくりの研究を始めました。
ところが社内に自動車メーカーの経験者はいない。大工出身はいるんですけどね(笑)。家を作るような発想で一生懸命考えましたが、なかなかうまくいかず、3年経っても形になりませんでした。

そこで発想を変えてみました。世の中の自動車メーカーはどうやって現在の姿になったのか。
調べてみると、例えばホンダは最初は自転車からはじまっているんです(編集部注:本田技術研究所における最初の市販製品は自転車に補助動力エンジンを取り付けたHonda A型だった)。
ホンダだけでなく、自動車メーカーの多くが自転車にエンジンをつけた二輪からはじまっています。そこに気づいて「よし、僕たちもこれでいこう」と決め、ハイブリッドバイクに着手したんです。

どうして自転車のようなデザインを選んだのですか。

僕たちがglafitバイクを作りはじめたころは、電動バイクのマーケットにはテラモーターズさん、UPQ(アップ・キュー)さんくらいしか目につきませんでした。テラさんはエコという観点で電動バイクを捉えていました。ガソリンバイクは地球環境に悪いから電気にしよう、という考え方で、だから既存のスクーターをそのまま電気にしたような製品でした。一方UPQさんは、近未来的なデザイン。今までとはまったく違う乗り物、というアプローチです。
どちらかが爆発的にヒットしていたら後追いを考えたかもしれません。でも見る限り、みんなが当たり前に乗っている状況ではない。そこでゼロから「自分ならどんな乗り物に乗りたいか」を考えたんです。

そうすると、まず僕はバイクが嫌いなんですね。バイクには乗ったこともありません。「自分=バイクに乗らない人」をターゲットとすると、スクーターと同じ形にするという選択肢はありませんでした。

UPQさん(UPQ BIKE me01)のような新しい形の乗りものには興味があり、僕も乗ってみたいなと思いました。でもあれに毎日乗るところを想像してみるとちょっと恥ずかしいかな、と。
旅先で「体験として乗ってみた」という使い方ならいいんだけど、普段の生活で乗る感じではない。そう考えると、自転車は既に生活の一部になっているので、あの形が一番いいだろうなという結論に達しました。

「折りたためる」というのは、最初から決めていたこと。もともと自分たちは「クルマを作りたい」という発想がベースにあるので、クルマとの接点を作りたかったんですよ。
だから軽自動車のトランクにでも折りたたんで気軽に積めるとか、トランクに常備しておいて出先ですぐ乗れるといった部分は、絶対に外したくありませんでした。

日常生活で使えるデザインと、折りたためること。この2点をマストにすると、もうこの形しかありません。
「絶対これしかないよね」というのが、開発チーム3人の、全員一致の結論でした。

別売りのキャリーケースは、使わないときに小さくたたんで収納できる仕様。

遊びの延長から経営者へ

「乗り物メーカー」を目指すと決めたきっかけは?

glafitを手がけるまで、本当にいろいろな商売をやってきました。
アパレル、パソコン、クルマの販売・修理・メンテナンス・改造、クルマの貿易、クルマのパーツ販売や卸し、カー用品の製造販売……。でも、クルマに関わってきたのはいわば遊びの延長でした。田舎で他に遊ぶこともなかったので、ハマっちゃったんですね。モビリティを明確に選んだというより、自然とどっぷり漬かっていた感じです。
当時は事業を経営している感覚も、仕事をしている感覚もない。好きなときに好きなだけ働いていて、始業時間もありません。人は雇っていましたが、どちらかというと手伝ってもらっているような感覚。何も取り決めがないような状態でした。

そんなとき、人生を変える本に出会ったんです。大久保秀夫さんの「The 決断 決断で人生を変えていくたったひとつの方法」という本です。これを読んだときは、すごい衝撃を受けました。そこからビジョナリー経営など、会社経営に興味を持つようになりました。そして、自分の会社にも100年ビジョンを作ろうと思い立ったんです。

実は当時、チームメンバーから諭されました。「突然勉強するのはいいけど、急に人が変わったようにきれい事を並べても意味ないからね」と。つまり、いくら人の言葉を拾って切り貼りしても、そこに真実味はないということを言われたんですね。

このとき、はじめてちゃんと考えました。自分自身が心から納得できるビジョンはなんだろう、と。改めて振り返ってみると、これまでずっと、乗り物の楽しさを追求して、それを周りの人にも提供してきたな、と気づきました。そこに気づくのは遅かったけど、そのベースは絶対に守ろう、と決めたんです。
その上でしっかり自分の会社を経営して、社会の役に立つにはどうすればいいか。考えて考えて考え抜いて、「日本を代表する次世代乗り物メーカーになる」というビジョンが生まれました。

僕たちのスローガンは、「驚き・感動・笑顔」です。開発当時はターゲットのペルソナは自分自身で、自分がほしいモノを作っていました。
今はそれをもう少し広げていくことを考えています。自分よりも若い世代や上の世代に対しても驚きや感動を与え、皆が笑顔になるようなモノ、モビリティを提供していこう、と社内でもよく議論しています。

ビジョンを作って最初のプロダクトとなったglafitバイクは、大ヒットになりましたね。本体価格は169,440円(税込)。発売して1年で、3000台以上売れました。

僕も都内の移動に使っていますが、ここ(渋谷)から青山や赤坂あたりだと電車を使うよりも全然早いですよね。しかも場所を取らないので本当に気軽に乗れます。実は、都会で手軽な移動手段になるというのは開発をはじめた後に気づいたことでした。

最初の発想では、クルマを駐めた後のラストワンマイルに使うイメージでした。僕たちは和歌山出身で、地方はクルマ移動が中心ですからね。地方では基本的にコインパーキングは安いんだけど、ちょこちょこ出し入れすると高くなっちゃうんです。上限500円とかっていう駐車場はよくあるんだけど、何回も駐めるとそのたびに料金がかかりますよね。だから一度駐めたら、クルマはできるだけ駐めっぱなしにしたいわけです。

地元では奈良や京都、和歌山だと高野山などの観光地を訪れたりしますが、観光地ではそもそもクルマでちょこちょこ移動できません。一回どこかに駐めたらクルマは基本的に置きっ放しです。そんなときの移動手段にも最適です。
例えば京都あたりをこれ(glafitバイク)で回ると、めちゃくちゃ楽しいですよ。自転車でも見て回れますが、移動できるエリアはある程度限定されます。glafitバイクだと、より広い範囲を回ることができますよ。

軽自動車のトランクにも余裕で収まる。(写真はglafit社提供)
 
レンタルバイクとして取り入れる観光地も。和歌山県のリゾート地、白浜観光協会の総合案内所。(写真はglafit社提供)

「量産」こそが一番難しい

glafitバイクが最初のステップだとすると、その先の三輪や四輪も開発は進めているんですか。

そうですね。そういった新しいモビリティ開発のために、はじめて外部と連携をしました。ヤマハ発動機さんと資本業務提携、パナソニックさんとも電池分野における実証実験を開始したほか、他にも複数の事業会社と提携や資金調達を予定しています(インタビュー後の2019年5月31日に、glafitはヤマハ発動機、東京センチュリー、ノーリツプレシジョンなど複数社から約2.7億円の資金調達を発表)。
たぶん、和歌山県の法人としては、はじめて外から資金を入れたのではないでしょうか。和歌山では、銀行からの借り入れ以外の選択肢はほとんど知られておらず、僕もベンチャーキャピタルとか資金調達っていう言葉は、最近知ったくらいです。それが日本の地方の現状なんです。

最終的に、近距離から長距離まで対応できる幅広いモビリティをカバーしていくような会社を目指しているのでしょうか。

基本的にはそうです。ただモビリティ業界はすでに成熟しきっています。あまりスタートアップは存在しないですよね。
ちょうど電動化という大きな流れがきて、ベンチャーにもある程度チャンスがあるような気にはなっていますけど、実際はとても難しい。

方向性は2つあって、面白いものを少量作る方向と、量産する方向です。そしてテスラを見るとよく分かると思うんですが、本当に難しいのは、量産なんです。

少量生産だと、できることはかなり多い。法律的にも少量生産と大量生産は別枠です。現状、ほとんどのEVベンチャーは少量生産でやっています。
コンセプトとか宣伝目的だったらそれでもいいんですが、事業化しようと思うと行き着く先は、1台数千万のプレミアムカーです。でも僕が求めているのはそこじゃない。何しろターゲットは自分ですから、1台数千万では買えません。自分で買えないものを作っても仕方ないので。

となると、目指すのは量産ですね。

はい。ただし、量産の定義自体は変わると思います。大手の自動車メーカーと比べると、僕たちが開発にかける期間やコストは大きく違います。自動車メーカーの方にとって、量産といえば最低でも1万台以上。我々の数千台というのは、彼らにとっては「試作」らしいんです。自動車メーカーのトップの方と話したら、「試作車作ってるんだね」「いつ量産するの?」という感覚でした(笑)。

彼らにとっては、数万台でもすぐ廃番になるくらい。数十万台は売れないとダメだそうです。なぜダメかというと、そこまで売れなければ採算が取れないからです。
逆に言うと、数千台、数万台でも採算がとれてずっと事業が続くなら、うちはそれを量産としてしまってもいいわけです。また別の角度から見ると、日本の法律では少量と量産の分かれ目は100台。100台以上になると、法律上は量産となります。

glafitバイクは、どのくらい売れれば採算がとれるんでしょうか。

初年度の年間約3000台というペースが保てれば会社は維持できます。そういう意味では、ハードルは低いです。

新しいもの好きが多い都市部の方が売れそうなイメージがありますが、都市部と地方を比べるとどちらの方が売れているんでしょうか。

販売実績でいうと、半分強が都市部、残りが地方です。glafitバイクは「自転車以上バイク未満」というポジション。確かに都市部の方がハマると思いますが、地方でもチョイ乗りという需要はあるようです。クルマに積めるというメリットも大きいです。そのあたりは弊社でも検証しているところです。
あと、やっぱりみんな自転車はこぐのが面倒なんだと思います。glafitはこぐときでも力があまり必要ないので、50代、60代の方々にも重宝して使っていただいています。そのあたりは、乗っていただければ一瞬で分かる部分ですよね。

ただ、残念ながら僕たちは新しいことをしているわけではないんですよ。
ここ10年くらいアジアでもヨーロッパでも、「この形」の乗り物はめちゃくちゃ流行っています。デザインや名前は違うけど「この形」が世界中で普及している。
なぜ日本で見かけないかというと、法律上の問題で、これが自転車扱いにならないからです。海外だと、これはe-bike(イーバイク)と呼ばれる自転車なんです。

(日本での普及を妨げている)壁は、道交法上で定められた交通ルール。つまり、乗るために保安部品やヘルメット、免許が必要なことなどですね。でも海外でこれだけ人気を博しているものですから、壁があったとしても需要がゼロということはないだろう、と。もし法律が海外と同じ水準まで緩和されれば、日本でも爆発的にヒットするはずです。

日本で成功してから海外へいきたい

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