【Sneak preview】 アクシスと考えるこれからのデザイン

Feb 08,2019report

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Feb08,2019

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【Sneak preview】 アクシスと考えるこれからのデザイン

文:
TD編集部 藤生 新

デザイン誌『AXIS』現編集長の上條昌宏(かみじょう・まさひろ)さんと、前編集長・石橋勝利(いしばし・かつとし)さんにお話を伺ってきた。雑誌の発行のみならず、さまざまな事業を展開している「アクシス」。お二人への濃密なインタビューを来週から前後編でお届けする。まずはその予告編だ。

六本木・飯倉片町で生まれた民間デザイン拠点

六本木ヒルズや六本木交差点から歩いて10分ほどのところにある「AXISビル」。六本木にはあまり馴染みのない筆者でも、このビルには足を運んだことがある。気になる展示を見に何度か訪れたことがあった。

その際、同じビルの中に洋書やデザイン書の専門書店、洗練されたインテリア雑貨店、照明器具のショールーム、そしてオレンジの屋根が眩しいレストランなど、さまざまな専門店が軒を連ねていることを知った。
この場所が「AXISビル」と呼ばれており、デザイン誌『AXIS』の発行元である会社が運営するビルであることを知ったのはさらに後のことだ。

久しぶりにAXISビルを訪れたのはこのイベントの取材のためだった。そこから改めて「アクシス」に興味を持ち、今回2名の人物にインタビューすることが決まった。デザイン誌『AXIS』の現在の編集長である上條昌宏(かみじょう・まさひろ)さんと、前編集長・石橋勝利(いしばし・かつとし)さんだ。

「AXISビル」外観(アクシス提供)

AXISが掲げる3本の「軸」

株式会社アクシスは「デザイン情報・ネットワークのシンクタンク」として1981年に設立された。その基盤となったのは、AXISビルのある六本木・飯倉片町にて、1976年に設立された民間デザイン拠点の開発計画「飯倉プロジェクト」だった。
その際に「デザインと生活」というコンセプトが掲げられたという。今ほどは「デザイン」という言葉や思考が定着していなかった時代のことである。そうした希求は第一線で活躍するデザイナーたちの中から自然と生まれてきたものだったのだろう。

そして現在もアクシスは当時の人々の想いを引き継ぎ、「デザインのある生活と社会の実現」をコンセプトに掲げている。

それでは、具体的にはどのような活動が行われているのだろうか?
その柱には「デザイン情報の提供」「デザインのある生活の提案」「デザインソリューションの提供」という3本の「軸」が据えられている。(そういえば、「axis」は英語の「軸」を意味している。)

構成はいたってシンプルである。まず「デザイン情報の提供」では、雑誌やウェブなどでのメディア事業を中心に展開されている。
次に「デザインのある生活の提案」では、AXISビルにある直営店やテナントの営業により、そこを訪れる人々の実生活にデザイン商品を提供することが目指されている。
最後に「デザインソリューションの提供」では、個人ではなく企業や組織に向けて、グラフィックやプロダクトから空間、コンサルティングに至るまで、さまざまな分野の「デザインによる解決」が提供されている。「AXIS」という言葉のもとで多様に展開している事業を大きくまとめると、このような見取り図になるのだろう。

最新刊の『AXIS』(2月号)

40年間彼らが向き合ってきた「デザイン」。これからどうなる?

筆者はこれまで、「アクシス」という組織の全貌は見えづらいように感じていた。知っているようでいて、実はよくわからなかった。

アクシスは、企業の「顔」とも言えるデザイン誌『AXIS』やビルでのショップ運営、ギャラリー運営に加えて、重要な軸として企業や組織向けの「ソリューションの提供」を行っている。
その側面にフォーカスしてみるならば、アクシスという組織は巨大な「デザイン事務所」でもある。メディアで情報を発信する主体が、実際にデザインを創造し、世に送り出している。ギャラリーを所有し、次の世代がデザインを発表する場も提供している。
これはたとえるならば、お笑いタレントの所属事務所がメディアを発行し、世にタレントを送り出し、さらには自社運営の劇場も所有しているということになるのだろうか。
あまりピンとくる比較対象が見つからないが(笑)、それだけ独自性のある試みとして、ひとつの分野に包括的に取り組んでいるということだけはよく分かる。

とはいえ、会社が設立された1980年代と現代とではその時代背景が異なることも事実である。たとえば、「デザイン」という言葉に対する人々の捉え方もこの40年弱の間で大きく変わっているはずだ。

筆者は、現代社会の中では、むしろ「デザイン」という言葉が広まり過ぎてしまったがゆえに、インフレを起こしているように感じている。
ハイパーインフレに陥ったジンバブエで、日用品の買い物にも山積みの札束が用いられている画像を見たことがある。それと同じように、かつて「デザイン」とされていた事柄に向き合う場合にも、より多くの言葉や概念を用いて考える必要があるのではなかろうか。(この現象は「デザイン」以外にも、「アート」や「キュレーション」や「編集」などにも覚える感覚である。)

つまり、「デザイン」というカタカナ語が手垢にまみれた言葉になりつつあるということだ。40年前にこの言葉が持っていた理念は、いまやありふれてしまったこの言葉からはこぼれ落ちてしまっているのではないだろうか?

だから、そもそも「デザイン」を日常に広めることをミッションに設立され、「デザイン」の最前線に立ち続けてきたアクシスで働く人々が、この「デザイン・インフレ」とも言える時代の中で「デザイン」という概念をどう捉え直し、実践しているかが気になるのだった。

おそらくそれは、単純に「言葉を広める」というミッションよりもずっと複雑に、工夫が必要とされる取り組みになるはずだ。

2月15日(金)と2月22日(金)にお届けする前後編インタビューでは、そうした疑問も含めて、さまざまなお話をデザイン誌『AXIS』の歴代編集長のお二人から伺うことができた。
何らかの形で「デザイン」に関わっている人にも、「デザイン」という言葉にあまりしっくりきていない人にも、ぜひ読んでほしい内容だ。

さらに、AXIS Galleryでは今まさに美大の卒展シーズンを迎えている。

これからを担う学生たちが渾身の力で発表する「デザイン」とはいかなるものなのか? そこに新しさはあるのか? いままさにインフレを起こしている「デザイン」のこれからを占う機会にもなるはずである。

<AXIS Galleryで開催予定の卒展一覧 ※記事公開日以降>

昭和女子大学 生活科学部 環境デザイン学科 プロダクトデザインコース卒業制作展 「HOME」(2019年2月8日(金)~ 2月10日(日))

女子美術大学短期大学部 デザインコース テキスタイルデザイン卒業制作学外展(2年・専攻科)(2019年2月14日(木)~ 2月17日(日))

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 2018年度卒業制作 選抜展「shide CONTACT 2019」 (2019年2月21日(木)~ 2月26日(火))

武蔵野美術大学 基礎デザイン学科 卒業制作展「CHALLENGE -Graduation Show-」 (2019年3月2日(土)~ 3月5日(火))

静岡文化芸術大学 有志卒業制作展「Re:STEN TOKYO 2019」(2019年3月8日(金) ~ 3月10日(日))

この記事を読んでAXISに興味を持った方は、ぜひ実際に足を運んでみてほしい。そして、次回の更新もどうぞお楽しみに!

次回「アクシスと考えるこれからのデザイン(前編)」は2月15日(金)公開予定です。

 

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