【試乗レポ】今すぐ買いたい(けど買えない)、2020年こそ発売してほしいモビリティ

Feb 07,2020report

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Feb07,2020

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【試乗レポ】今すぐ買いたい(けど買えない)、 2020年こそ発売してほしいモビリティ

文:
TD編集部 出雲井 亨

2020年はオリンピックイヤー、様々な新しいモビリティの登場が期待される。まだ製品化されていないものの中で、ぜひ今年、量産・発売に向けて動いてほしいと筆者が熱望する、2つの超小型モビリティ「TRITOWN」と「i-ROAD」の試乗レポをお送りする。

乗りものが与えてくれる2つの楽しさ

筆者はこれまで「ラストワンマイル・モビリティ」をテーマとして試乗レポを行い、BIROFOMMコムスglafitLimeなどの超小型モビリティに乗ってきた。
その中で「乗りものの楽しさには2種類ある」と気づいた。

ひとつは好きなときに好きなところに行けるという「自由の楽しさ」だ。例えばLimeがその好例だ。ベルリンの街中、いたるところにLimeが置いてあり、スマホアプリで認証するだけで手軽に乗れる。自分の行動範囲を大きく広げてくれるという喜びがあった。

もうひとつの楽しさは、自分の手足のように「操る楽しさ」だ。これはスキーのようなスポーツの楽しさに近いかもしれない。道具によって自分の能力を拡張し、生身では味わえないほどのスピード感を味わえる。これもまた乗りものの魅力だと思う。

今回紹介する2つの乗りものは、この「操る楽しさ」にあふれているのが特徴だ。筆者は2019年の東京モーターショーでの試乗体験が忘れられず、年をまたいでなお「また乗りたい」という魅力を感じている。

東京モーターショーでは有明と青海という2つの会場をつなぐ道が「オープンロード」と名付けられ、電動キックスクーターや超小型EVなど未来の乗りものを試乗できるアトラクションが用意されていた。
試乗時間中、夢中になって走り、降りた後も「また乗りたい」と思う。その魅力と楽しさを少しでもお伝えすべく、襟元に挟んだアクションカメラで動画を撮ってみたので、そちらもぜひご覧いただきたい。

前2輪の立ち乗りモビリティ、TRITOWN

最初に紹介するのはヤマハ発動機の「TRITOWN(トリタウン)」。2017年の東京モーターショーで発表された電動立ち乗りモビリティで、フロントタイヤが2つあるのが特徴だ。このフロントタイヤにはヤマハ独自のLMWテクノロジーという機構が使われており、安定性を高めながら、通常の2輪車と同じ感覚で傾けて曲がることができる。

前2輪、後ろ1輪の立ち乗りモビリティTRITOWN

2輪車にとってフロントタイヤは非常に重要だ。例えばブレーキをかけるときは制動力の大部分をフロントタイヤが受け持つ。モトGPなどのバイクレースを見ると、コーナーに向けてブレーキをかけているときリヤタイヤはほとんど浮いていて、フロントタイヤだけで減速しているのが分かると思う。また、カーブを曲がっているとき、リヤタイヤが滑ってもある程度技術があれば立て直せる。だがフロントタイヤが滑ってしまうとひとたまりもない。あっという間に転倒してしまう。この辺の感覚は、自転車でドリフト遊びをしたことがある方なら分かっていただけると思う。

それほど重要ならばフロントタイヤを2輪にすればもっと安定するのではないか、ということで開発されたのがLMWだ。LMWはLeaning Multi Wheelの略で、ヤマハのサイトには「モーターサイクルのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車両の総称」という説明がある。
ヤマハはLMWを採用した3輪スクーターのTRICITY(トリシティ)を2014年に発売し、安心感のあるスクーターとして人気を集めている。2018年には845ccのエンジンを積む大型の3輪スポーツバイクNIKEN(ナイケン)を発売。さらに2019年の東京モーターショーでは中型の3輪スクーターを展示するなど、LMWの3輪ラインアップを拡大している。

LMWの説明が長くなってしまったが、このLMW機構を採用した電動キックスクーターが、TRITOWNだ。ほかの電動キックスクーターと、乗った感覚はどう違うのか。本当に前2輪の安心感は感じられるのか。早速試してみることにした。

スキーのように踏み込んで曲がる

車体を見ると、一般的な電動キックスクーターよりも大きなタイヤを備えている。車体中央にバッテリーが取り付けられており、それをまたぐ形で足を乗せる。足を肩幅くらいに開いて乗れるので、電動キックスクーターよりも自然な姿勢をとることができる。

最初に乗り込むときは、ちょっとコツがいる。LMWはフロントタイヤが2つあるため自立するように見えるが、実は手を離すと倒れてしまう。これは前述のTRICITYやNIKENも同様で、このため信号待ちでは足を着く必要があるし、駐車するときにはスタンドを使う。TRITOWNも基本的に同じだが、ロック機構を備えており、車体をまっすぐ立ててロックをかけることで、直立状態を維持できる。

前2輪を支える特徴的なLMW機構が見える。ロックすれば自立可能だ
バッテリーをまたぐように乗る

そこで、乗車するときはまずロックをかけ、車体が自立している状態で片足ずつ乗り込む。両足を乗せたらロックを解除する。両足に均等に体重が乗っている状態なら、停車していても簡単にバランスをとることができる。ちなみにロックを忘れたまま乗り込もうとすると、片足をのせた瞬間にグラッと傾いてしまう。

ハンドルステムの付け根にある銀色のレバーでロックをかける

走り出してみると、やはり安定感は抜群。タイヤが大きいこともあって路面の段差にハンドルを取られることもなく、2輪の電動キックスクーターよりもふらつきが少ない。

驚いたのは、とにかく曲がるのが楽しいということだ。カーブの外側となる足をぐっと踏み込んで体を内側に倒す感覚は、スキーに近い。地面からの反発を感じながら右、左とスラロームをしてみて、思わずにやけてしまった。慣れてくれば結構な小回りもでき、常にフロント2輪の安心感があるから「少し速いかな」という速度でコーナーに入ってもクイッと曲がれてしまう。これはクセになる新しい感覚だ。動画には狭い道路でUターンしている様子も映っているので、ぜひ確認してみてほしい。

今回は試乗ということで10km/hまでに制限されていたが、本来の最高速度は25km/h。これならもっとスピードを出しても楽しめるだろう。TRITOWNのレースがあっても面白いかもしれない。そんなことを考えてしまうほど、刺激的でスポーティな乗り味だった。さすが「ハンドリングのヤマハ※」だ。
※バイクレースの世界ではストレートで速いホンダと、コーナーで速いヤマハを対比して「パワーのホンダ、ハンドリングのヤマハ」という。

TRITOWNは今のところ自分の中で所有してみたい電動モビリティ・ナンバーワンなのだが、残念ながら市販されていない。各地で実証実験を繰り返しているから、もし近くで乗れる機会があったらぜひ試してみてほしい。きっと新しい楽しさに魅了されるはずだ。

くるりと曲がるのが楽しいi-ROAD

もうひとつ印象に残った乗りものは、トヨタの超小型EV「i-ROAD(アイロード)」だ。こちらは2013年のジュネーブショーでコンセプトが発表され、既にシェアリングサービスの実証実験「Times Car PLUS × Ha:mo」などで公道を走っているため、今さら? と思う方もいるかもしれない。だが筆者は今回が初試乗で、乗ってみたらカーブを曲がるのがすごく楽しかったのだ。

鮮やかなカラーがまぶしい1人乗りのEV「i-ROAD」

i-ROADは、前2輪、後ろ1輪の3輪自動車。TRITOWNと違い、前の2輪は駆動のみを担当し、後ろのタイヤが操舵を担当する。つまりハンドルを切るとリヤタイヤが動くのだ。この構造が独特の運転感覚を生む。

ハンドルは後ろのタイヤと連動している

ドアを開けてシートに乗り込むと、目の前にあるのは普通のハンドル。足元にアクセルペダル、ブレーキペダルがあるのも普通のクルマと同じだ。ブレーキを離してアクセルを踏み、そろそろと走り出しても違和感はない。ところがカーブに差し掛かってハンドルを切りはじめると、切れ角に連動して車体がカーブの内側に倒れ込み、くるりと車体が向きを変える。
調子に乗って進入速度を上げてみた。ぐいっとハンドルを切ると、車体は大丈夫なのかと思うほど傾く。だが前二輪のタイヤにはまだ余裕があるらしく、走行ラインが膨らむことはない。まるでレールの上を走るがごとくコーナーを走り抜けた。このときの様子は動画でぜひご覧いただきたい。

前輪の向きは固定のはずなのに、ハンドルを切るとフロントが内側に入る感覚がある。どうやらこれは前輪の形状に秘密があるようだ。i-ROADのフロントタイヤは、バイク用タイヤのように正面から見たときの断面が楕円形となっている。このため傾けると軌跡が自然と内側を向くのだ。これにリヤタイヤの操舵が加わり、くるりと車体が向きを変えるらしい。バイクとはまた違った曲がり方は、独特の楽しさがある。

車体を傾けるこの機構を、トヨタでは「アクティブリーン機構」と呼んでいる。幅が細く背が高い車体がカーブの遠心力で倒れないようにするためのしくみだ。スピードに応じて自動的に最適な角度で傾くため怖さはなく、乗っていればすぐに慣れる。カーブの最中に強くブレーキをかけた際も、倒れそうになることはなかった。

i-ROADは、自動車よりも軽快に曲がり、バイクよりも安心感がある新しい乗りものとして、大きな可能性を感じた。1人または2人で都市を移動するのにぴったりのサイズ感で、何よりも運転が楽しい。

「楽しい」モビリティの登場に期待したい

TRITOWNとi-ROADには共通点がある。「3輪であること」「車体を傾けて曲がる」こと、そして「乗ること自体が楽しい」ことだ。どちらも新しい感覚の乗りものだけど、両方ともとても自然に感じた。
考えてみれば、人間はカーブを走り抜けるときに自然に体を内側に傾ける。しかも前2輪だから、両足で踏ん張る感覚を得られるのかもしれない。ちょっと言い過ぎかもしれないが「体が覚えている感覚に近い姿勢でカーブを曲がるから安心感があるのかもな」と思った。

2020年はオリンピックイヤーだ。さまざまな新しいモビリティが登場するだろう。実際オリンピックではAI搭載のコンセプトカー「TOYOTA Concept-愛i」が聖火リレーを先導し、「e-Palette」がレベル4相当の自動運転で選手村を走り回るそうだ。これをきっかけに、いよいよ日本の街の風景が変わりはじめるかもしれない。

一方で、新しいモビリティを取り巻く環境には、まだまだ課題もある。そのひとつが現代の交通事情に合っていない法制度だ。TRITOWNのような電動キックスクーターは、法律上原付扱いとなるため、ヘルメットをかぶり、ナンバープレートをつけてクルマとともに車道を走ることを求められる。glafitバイクの記事でも触れたが、時速20kmそこそこのモビリティで車道を走るのはかなり怖い。この種の電動キックスクーターの中には、緩い登り坂でも時速15km以下まで落ちてしまうものさえある。クルマ側から見ても、幹線道路を時速50-60kmで走行中に、目の前にふらふらと電動キックスクーターが出てくるのは恐怖だろう。

例えば電動キックスクーターも「自転車歩道通行可の歩道なら走っていい」など、新たなモビリティ枠の設定が必要だと思う。その際、最高速度を時速15kmに押さえた「歩道モード」を義務づけるといった運用もありかもしれない。glafitは和歌山市と共同で、人力のみのペダル走行時は自転車扱いにするという実証実験を実施していたが、もしこれが制度化されればglafitバイクの使い勝手は大幅に上がるだろう。

i-ROADに関しては、超小型モビリティの「2人乗り解禁」が注目だ。実はi-ROADには2人乗りモデルもあり、超小型モビリティ認定制度を利用して渋谷区で実証試験も行っている。これまでBIROやFOMM、コムスなどの超小型モビリティに乗ってきて実感したが、この手のモビリティには2人乗れれば送迎に使うことができ、利用用途が大きく広がる。2人乗りの超小型モビリティについては、もう10年も議論しているが、なかなか大きな進展がなかった。

ただオリンピックを前に、いよいよ制度が変わっていきそうな期待もある。2019年末には、経済産業省が電動車いすや電動キックスクーターを含む超小型モビリティに補助金を出すことを検討中というニュースも流れた。これをきっかけに、いよいよ新しい移動手段の普及が進み始めるかもしれない。モビリティが大きく変わる中、いつまでも古い制度に固執するのではなく、柔軟に新しいしくみを検証し、スピード感を持って変わっていく。そんな社会になっていくことを望みたい。

いずれにしろ、TRITOWNとi-ROADは、走ること自体がとにかく楽しかった。いち乗りもの好きとしては、こんなふうにワクワクする乗りものがどんどん登場する未来を楽しみにしている。

 

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