小型モビリティの設計に携わり続けた鶴巻社長が挑むFOMM ONEの世界

Sep 28,2018report

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Sep28,2018

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小型モビリティの設計に携わり続けた鶴巻社長が挑む FOMM ONEの世界

文:
TD編集部 出雲井 亨

2019年、いよいよタイで販売を開始するFOMM ONE(フォム・ワン)。前回はその試乗レポートをお届けした。今回は、FOMMの創業者であり代表取締役CEOである鶴巻日出夫氏にインタビュー。鶴巻社長はエンジニア出身。これまでのTDとは少し異なるアプローチで、「技術」と「ビジネス」を中心に聞いてきた。

ペダルはブレーキ1つだけ。安全性と空間確保を両立する工夫

衝突実験もやっているんですね。

実はL7e規格には衝突安全の項目はありません。だから強度を落とせばもっと軽く作ることもできるかもしれません。でも私たちは、そこはきちんとするべきだと思っていますので。
また操作系ですが、アクセルも一般的なクルマのようにペダルではなく、ステアリング裏のパドルを操作する形としています。インホイールモーターが付いたフロントタイヤの切れ角を確保するため、運転席の足もと空間はどうしても狭くなってしまいます。このためペダルはブレーキのひとつだけとし、アクセルはパドルで操作する方式にしました。これも結果的にアクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐ効果があります。

グローブボックスが助手席、運転席の両方についているのもユニークですね。

はい。これはメーターをセンターにおいて、左右対称に作ってあります。右ハンドル、左ハンドルの両方に対応できるような設計にしています。

バンコクモーターショーのFOMMブース。鮮やかなブルーがパッと目をひく。
 水に浮かぶというのも大きな特徴ですね。

ボディは樹脂を挟んで一体成形したボート構造になっており、ドアを閉めるとも密閉されるようになっています。インホイールモーターも防水仕様で、洪水のときでも水に浮かぶことができます。さらにその状態で移動できるよう、ホイールの形状を工夫しました。フロントタイヤが回転することで水を吸い込み、それを1か所から吐き出すことでハンドルを使って向きを変えたり、ゆっくりと進むことができます。
誤解されがちですが、FOMM ONEは決して「水陸両用車」ではありません。あくまで水害などの緊急時に避難できるための機能。この機能については保証の対象外です。

「450kg以下」実現のために部品ひとつひとつまで地道に見直す

開発で最も苦労した点はどんなところでしょうか。

450kgという重さです。L7eではバッテリーを除いて450kg以下と規定されているのですが、これがなかなかクリアできなくて苦労しました。社内でも「いくらなんでも無理だから2人乗りにしよう」という意見があり、かなり議論しました。ただそこは私も譲れないので「絶対ダメだ!」と押し切りました。

この重量をクリアするためにかなり高価な部品を使っています。ラダーフレームはアルミ押出フレームですし、フロントのロアアームはアルミ鍛造です。ほかにも、部品ひとつひとつを地道に見直して軽量化することで、なんとか目標をクリアしました。

インホイールモーターならではの走り、というのはあるのでしょうか。

サスペンションの設定が少し難しいですが、ほかのEVとそんなに変わりません。自然に乗っていただけると思います。2017年のジュネーブショーでは4輪にモーターを搭載したコンセプトモデル(AWD SPORTS CONCEPT)を公開しましたが、実はこれの走りがすごくいいんですよ。ちょっと今は日本にないんですが……。本当に乗ってみてほしいです。

2017年のジュネーブショーで発表されたAWD SPORTS CONCEPT(写真はバンコクモーターショー)
今後の展開について教えてください。

タイのバンコクにショールームをオープンして、タイでのプロモーションを本格的に進めています。2018年のバンコクモーターショーでは、期間中に355台もの予約がありました。
他の国で販売したいという問い合わせも多くいただいているほか、うちで作りたいという国もあります。特に自国に自動車産業がない国からの引き合いは強いですね。
FOMM ONEは部品点数が約1600点で、一般的な内燃機関のクルマの約3万点と比べるとかなり少ない。だから生産設備も小規模ですみ、展開しやすいのです。

タイでは我々自身がFOMM ONEを販売しますが、実はこれは特殊なケース。
FOMMは裏方としてコンポーネントを提供するようなビジネスモデルを考えています。相手の要望に合わせて設計・デザインし、ロイヤリティをいただくビジネスです。このモデルであれば、主要部品を共通化すれば年間10,000台の生産台数でも成り立ちます。

最初からグローバル展開を視座に置き、自動車産業がない国でもチャレンジしていく……。共通のコンポーネントを使って、バラエティ豊かなクルマが登場する世界を創造すると、ワクワクしますね。今日はありがとうございました。

鶴巻 日出夫(つるまき・ひでお)

1962年 福島県生まれ。東京都立航空工業高等専門学校(現 東京都立産業技術高等専門学校)卒業後、鈴木自動車工業株式会社(現・スズキ株式会社)入社。二輪車のエンジンから車体まで多岐にわたる設計を担当。 1997年にアラコ株式会社に移り、一人乗り電気自動車「コムス」等の開発に携わる。その後のトヨタ車体株式会社でも新型コムスの企画・開発に従事。 2012年、株式会社SIM-Driveで超小型電気自動車の東南アジア展開を企画し、2013年に株式会社FOMMを設立。

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